今年の夏はとりわけ暑い日が続き、お祝いの席でもきものを着ることをためらってしまいがちであったと思いますが、そんな中、ご友人の結婚式にお出かけになったお客様をご紹介いたします。
お召しになったきものは、サーモンに近い淡いピンク色に萩だけが描かれた、絽縮緬のアンティークのもの。色白の肌にピンクがとても映え、ご自身で選ばれた水色の小物で、いっそう爽やかな姿となりました。
萩は、山上憶良が万葉集で「萩の花 尾花(をばな)葛花(くずはな) なでしこが花 をみなへし また藤袴(ふぢはかま) 朝顔(あさがほ)が花」と詠んだという、日本の秋の七草のうちのひとつです。
絽縮緬は基本的に6月から9月にかけてお召しいただける生地で、大正から昭和にかけて流行し、現代では帯揚げ、半襟などは多く見かけますが、きものとしてのものは少なくなってしまったようです。
アンティークの絽縮緬は糸が細いので、縮緬のやわらかな印象はそのままに、盛夏でも軽やかに涼しげにお召しいただけます。
8月も終りの頃のお式でしたが、この日も例外なく暑く、きもののためにも、見た目にも、なるだけ汗をかかない工夫を事前から苦慮されていらしたのですが、当日お持ちになったのは一本の腰紐。
これを、わきの下のツボに当たるようにぎゅっと締めると、顔に汗をかかない、という、舞妓さんの裏ワザを採用されました。(横で聞いていた新陳代謝のすこぶる良いヘアメイクの大野は、あまりに顔に汗が出るときには、自分でもそのあたりのツボを無意識に押す、と言っておりました)
可憐でどこか物哀しい秋草の模様と、ごく薄い生地が光に透けて揺れるさまは、ひとつの季節の終りと、やがて来る静かで涼しい風を連想させます。
暑さをしのぐための数々の智恵と様々な工夫の形を、今回のお客様の装いに対する真摯な心を通して、感じ入った日でした。
レンタルフロア 松田