大暑(字面さえ暑い暑い)お見舞い申し上げます。
真夏に上布姿のおしゃれな女性とすれ違うと、涼風を送られた気がいたしますね。夏のお召し物の代表、といえばやはり“上布”。細い麻糸で織られた軽く極薄のセミの羽、北の国から「越後上布」「能登上布」、南の国から「宮古上布」「八重山上布」など風合いも肌合いも違いはあっても、お着物好きにとって一度は手を通したいあこがれの一品です。
いま灯屋2では、珍しい色絣をはじめいろいろ宮古上布を取り揃えて、皆様のお出でをお待ちしております。
宮古上布の仕上げの工程で「砧うち」がされるのはよくご存知の通りです。実際見学なさった方もおられると思いますが、なかなか重労働ですね。
アイロンのなかった明治以前では、砧うちは洗濯の最後にシワ伸ばしとして、どこの家でも、女の夜の仕事としてされていたようです。
朝鮮では明治以後もこの仕事は続いていたようで、『春の海』に代表される箏曲家・宮城道雄の初期作品に『唐砧』がありますが、若い頃朝鮮に暮らした宮城は、日常、砧の音を聞いて、曲想を得たときいています。
家事の一つなのですが、俳句の秋の季語としてもつかわれるほど日本の文化にも深く影響しています。
うちまぜて遠音かちたる砧かな 飯田蛇笏
中国の詩人白楽天の著名な『聞夜砧』、世阿弥の代表作・能『砧』、どちらも晩秋の寂しさの中で、風に乗せて、遠く離れた愛する夫の元に届け、とばかりに砧を打つ妻の静かで激しい思いを描いています。
「今の砧の声添えて 君がそなたに吹けや風」
「砧の音夜嵐 悲しみの声虫の音 混じりて落つる露涙 ほろほろはら
はらと いずれ砧の音やらん」
砧打つ音はたぶんもっと重く響く音、「ほろほろはらはら」とは風に託した思いの音ではないか、と帰らぬ夫を待ち続ける妻の心情にふと思いやりたくなります。
薄物に風をはらんで、来るべき秋を待ちたい、銀座の7月です。