三月も半ばを過ました。
灯屋2代々木店では、卒業式シーズンもピークを迎え、連日袴姿のお嬢様達の笑顔が眩しく輝いております。
その一方でアトリエでは、単着物の用意も着々と進行しています。
お客様を思い浮かべながら、一枚また一枚と仕立て上げていくのは、スタッフ一同の喜びです。
常に新鮮な布との出会い感動を、お伝えしたいと思います。
先日、越後上布の故郷である新潟県魚沼市より、「雪さらし」をお願いしていた反物が戻ってきました。
「雪さらし」とは、雪上に広げた布が太陽の紫外線を浴びると、溶けた雪のオゾン効果によって漂白されるものです。
白い雪原に整然と反物が並べられた光景は、雪国の風物詩としても知られています。
自然の力を利用した伝統的な手法の出来を、楽しみにしていた私達です。
美しく蘇った麻の上布を見て、感嘆の声があがりました。
綺麗になっただけでなく、雪の香りが漂ってくるように、しっとりと冷たく柔らかい感触。
麻とは思えないほど、しなやかでなめらかです。
そのわけを、「雪さらし」をお願いした魚沼市の古藤政雄さんに、電話でお聞きしました。
水分を程よく残し、麻の繊維を知り尽くした、産地ならではの仕上げ方法とのことです。
自然の豊かさと人間の知恵、丁寧な手作業の素晴らしさ。
アトリエの布は、故郷で雪の上で大きく伸びをするように疲れを癒し、手入れされることで本来の魅力を倍増させました。
盛夏の装いは、真冬の作業で支えられていることもよくわかりました。
四季の恵みはありがたいです。
皆様もこれから上布に袖を通した時に、「雪」を感じて下さいね。
海老沢